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「ん……」

ネロが目を覚ますと目の前には見覚えの無い天井が広がっていた。
同時に自分の身体に目を向けると上着や下のインナーを脱がされ、わき腹に包帯を巻かれて傷の手当てもされている状態だった。

「ここは……」

ゆっくりと身体を起こすとわき腹から鈍い痛みを感じたが、歩けないというほどではなかった。
ベッドから降りて地面に足をつけると地面に立っている感覚を感じた。
どうやら死んで天国にいるというわけではないようだ。

「あら……」

不意に背後から気配を感じ、振り返ると白いスーツの様な服装に身を包んだ短いながらも艶やかな黒髪の女が部屋の入り口と思われる場所に立っていた。
女はネロが立っていることに驚いていたようだが特に警戒する事もなく近くの椅子に腰掛けた。

「あれだけの傷を負っていてもう立てるなんて、さすがね」

女はテーブルに置いてあったカップにコーヒーを注ぐとネロに向かいの椅子に座るように促した。

「アンタが俺をここまで運んだのか?」

「んー……まぁ、そうね。怪我したあなたをあの場所からここまで運んで手当てしたのよ。あの時のこと、どれくらいまで覚えてる?」

「……赤いコートの男が悪魔と戦っていた時……くらいか」

「なるほど……」

「………」

今のネロには聞きたい事が山ほどあった。
しかしそれを目の前の女に聞いてよいのか、聞いてしまった事で自分に不利な事になるのではないか。様々な感情がネロの中で渦巻いていた。
ネロが思案していると、女が入ってきた扉が無造作に開かれた。
視線を向けると赤いコートを羽織った銀髪の男があくびをしながら部屋に入ってくる。

「よぉ、目ぇ冷めたんだな」

男はそう言いながら先ほどまでネロが横になっていたベッドに腰掛けた。
女と同じくネロが既に歩けている事には驚いていないようだった。

「何か聞きたいって顔だな」

「………」

「そう警戒するな。ま、気持ちはわからないでもないけどな。ただ1つ言えるのは俺達はお前さんの敵じゃねぇって事だ。」

男の言葉にネロは少しばかり納得していた。
この男達にどんな思惑があるにせよ敵意があるならばこんな場所に連れ込んで傷の手当てまでする必要はないからだ。
そして今は状況の把握がしたい。そう思いネロは口を開いた。

「ここはどこなんだ?」

「ここか?ここは軍のキャンプだ。どっかの軍が拠点としてるキャンプってとこだ」

「……軍?」

「ここは民家が集まってる小さな街でね。最近頻繁に悪魔の大群が押し寄せてくるからここの住人が軍を雇ったのよ」

男の説明に女が補足をする。

「……アンタ達も軍人なのか?」

「いや、俺達は仕事でここに来てる」

「仕事?」

男の言葉を女が続ける。

「いくら軍って言っても相手は軍人にとっては未知の敵だしね。私達みたいな悪魔を狩ってる人間を雇って悪魔へ対抗しようとしてるのよ」

「……軍の奴らはそれを自分達の手柄にしようとしているのか?」

「そんなとこだ。まぁ、俺達にとっちゃそんなことはどうでもいい。仕事をした分の報酬さえ貰えりゃあな」

そう言って男があくびをする。女も男と同じ考えなのかその事に関しては追求してこなかった。

「とりあえず、お前はまだ寝とけ。何をするにしても体が万全じゃねぇと話にならねぇからな。詳しい事は気が向いたらまた説明してやるよ」

男が立ち上がり、ネロに眠るように促した。
事情はまだよくわからなかったが、今は男の言葉に賛同する事にした。

「ああ、そうさせてもらう」

ネロは再びベッドに横になるが、ふと思い出したように顔を上げた。

「……聞きそびれていたが、あんたの名前は?」

「ん…そういや名乗ってなかったっけか。俺はダンテってんだ。そんで、こいつがリリィ」

ダンテが後ろの女の名前も一緒に自己紹介する。

「そうか……俺はネロだ。助けてくれた事に感謝する」

「細かいことは気にすんなよ。それより、さっさと休まねぇと治るもんも治らねぇぞ?」

「ああ、そうだな……」

そうしてネロは再び眠りに付いた。





それから1週間、ネロはダンテ達と行動を共にしていた。
以前の戦いで負った傷は完治し、魔の血を引いた身体能力をフル稼働させて悪魔を討伐していた。
討伐とはいうものの、ダンテ達が加勢するべき軍での戦闘ではなく、ネロが単独で行動し、その出先で現れた少数の悪魔の討伐というものではあったが。

「大分できるようになったんじゃねぇか?」

悪魔討伐の帰り道、不意に頭上から聞き覚えのある声が届いた。
近くの木に視線を向けると木の枝にダンテが腰掛けていた。

「……来ていたのか」

「まぁな」

そう言いながら木の枝から飛び降りて地面に着地し、

「招集だ」

とネロに告げた。

「招集?」

「ああ。前に言ったここに来てる軍の連中が悪魔の大群を捉えたらしくてな」

「悪魔の大群?急じゃないか?」

「急に出てくんのはいつもの事だろ。どこから沸いてくるのかはわかんねぇがこっちに向かっているのは確かだって話だ」

ダンテが頭を掻きながらため息をつく。

「ま、付いてこい。軍の連中の作戦室に行くぞ」
悪魔が何故どこから現れるのか、それは現場に行って全てを片付けた後にでも調べればわかることだろう。今は余計なことに気を取られずに実戦に備えるべきだ。
ネロは気を引き締め、剣を収納したケースを担ぎ直した。


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 2015_11_19


「ねえお兄さん、水買わないかい?」

水瓶を抱えた少年が男に声を掛けた。
男は水瓶の抱え方から水がそれほど売れていない事、このまま帰れば雇い主に小言を言われるであろう事を察し、さして喉が渇いていないにも関わらず水を購入する。

「お兄さん、ここの人じゃないね」

男の差し出した水筒に水を汲みながら少年が嬉しそうに言った。

「ああ」

「どこに住んでるの?」

「どこでもない。世界中を旅して周っている」

”世界中”という言葉が少年の好奇心を刺激した。

「じゃあ……じゃあさ、宇宙とか行ったことある?」

「何度かな」

「学校で先生が言ってたんだけどさ、そういう所は環境が苛酷だから、そこにいる人たちは皆で助け合って生きてるって……」

「ああ、その通りだ……」

憂いを帯びた顔で男が言葉を続ける。

「だが、そうじゃない場所もある」

「……どういうこと?」

「人は本当の意味で、まだわかりあえていない」

「それってどういう……」

少年の問いには答えず、男は言い値よりも多い金額を少年に渡し、傍らに停めていた車に乗って走り去った。

車を走らせていると多くの民家の壁に貼られている、かつての仲間達の報道写真が目に入ってくる。
共に肩を並べて逸れて以来、会うことは叶わなかった。
しかし、状況は知っていた。かつての師であり、敵となったある男の味方をして、裏で世界を操っている者たちの策略により、社会的に抹殺され、仲間達もまた行方不明になっている事を。
自分達を犠牲にして世界は過去に起きたことを揉み消そうとするあまり、各所で歪みを生み出している。
世界を見てきた旅の中で、男はそのことを痛烈に感じていた。
だからこそ、ここに来たのだ。
自分が変わり始めた始まりの場所に。

小高い丘に車を停めた男は、眼下に広がる廃墟と化した街と焼けて炭になった森の成れの果てを眺めていた。
4年前に、男はここである男に出会い、命を救われた。男の人生はそれを機に変わり始めた。

「…………」

男はそっと瞼を閉じた。
ネロ・クレイトスはあの日の出来事に思いを馳せた。





ネロの運命が変わったのはまだこの森が焼ける前、鬱蒼と生い茂っていた頃だ。
かつて命を落としかけた自分を救い、そして敵となってしまった男との死闘の末、ネロは致命傷を負いながらも師であった男を倒し、気が付くと森のど真ん中に横たわっていた。

「……うぅ……」

朦朧とする意識の中、ゆっくりと体を起こすと右わき腹に激痛が走り、ネロは顔を歪めた。
先の戦いで受けた傷は深く、傷口からは血を流していた。
周囲を見回すと、自分の武器である剣が突き刺さっていた。

「……ぐ……ぅ」

痛みを堪えながら突き刺さっている剣を杖代わりにして立ち上がり、剣を地面から引き抜く。
傷は相変わらず激痛を与えていたが、ここでのんびりしている余裕はなかった。
剣を背負い、左手で傷を抑えながらゆっくりと歩き出した。

少し歩くと人が踏み固めて作ったものと思われる道のようなものを発見した。
少々荒れてはいるが、そこだけ草が生えておらず、微かに足跡のようなもの確認できた。
僅かに安堵し、道の上を歩こうとした時、ネロはその足を止めた。
傷を抑えていない右腕から針で刺されたような強烈な痛みを感じたのだ。それと共に体の芯に火がついたようにわけのわからぬ闘争心が湧き上がってくる。
幼少の頃からネロが感じてきた不快感の意味するところは一つしかない。

疼きだ。そして、その疼きをもたらす相手をネロはこう呼んでいる。

悪魔、と。

その直後、木の影から何かが飛び出してくる。

「くぅっ……!」

即座に回避しながら距離を取り、自分を襲ってきた存在を確認する。
木の影から出てきたのは全身を緑色の鱗に覆われたトカゲのような姿をした怪物だった。
トカゲとの最大の違いは二足歩行で移動するという点だ。
過去に何度か目撃し、交戦した事のあるその存在をネロは”リザード”と呼んでいた。
リザードはネロを目視すると両手の爪をカチカチと鳴らしていた。

「戦うしかないのか…!」

リザードは足が速く、怪我をしているこの状態では逃げ切る事も出来ないと判断し、ネロは右手で背負っていた剣を抜いて臨戦態勢をとる。
傷は癒えておらず万全とはいかなかったが、右腕に力を込めて襲い掛かるリザード目掛けて剣を振り下ろすが、傷を負ったためかうまく力を入れる事ができず、僅かな傷を与えるだけとなった。

「ぐっ…!」

力を込めようとすると傷口から血が溢れてくる。服に染み込み、腰の辺りまで到達していた血液は既に冷たくなり始めていた。
敵の動きが急変したのはその時である。リザードが体を旋回させ、腰から伸びる尻尾を振り払った。
間一髪で剣を割り込ませて一撃を防ぐが、衝撃を吸収しきれず後方に大きく跳ね飛ばされ、後方の木に大きく叩きつけられ、衝撃でネロの肺から空気が搾り出された。

「うっ、くぅ…!」

軽く頭を振り、すぐに視線を目の前の敵に向けた。
過去の経験からネロは一気に攻め込み、撃破する戦法に切り替えることにした。
大きく息を吸い込み、一気にリザード目がけ突進した。
同時にリザードも鋭い牙が並ぶ口を大きく開いて飛び掛る。
ネロは鋭い爪が振り下ろされる寸前、地を蹴り、高々とリザードの頭上に跳躍した。
魔の地を引いているネロは16という若さで人間離れした身体能力を身に付けていた。

「くらえっ!」

そのまま剣を逆手に持ち替え、全身の筋肉と全体重を剣の刀身に乗せリザードの頭と体を繋ぐ首の部分に突き立てた。
思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げながら、リザードは地面に倒れ、息絶えた。

「はぁ……はぁ……ぐっ……終わったか……」

悪魔を討ち終えたネロは傷を抑えて膝をついた。
敵を倒すためとはいえ、傷を負った身体に少々無理をさせすぎた。
しかし、ネロの右腕から発する疼きは治まっていなかった。
今の戦闘に誘い出されたのか、はたまた別の要因か、ネロの周りを大量の悪魔が取り囲んでいた。
倒したばかりのリザードと同じ固体や、蝿をそのまま巨大にしたような悪魔が数体ネロの周りを飛行していた。

「く……っ!」

立ち上がり再び剣を構えるが、大量に血を流したせいか、視界が歪み体勢を少し崩してしまう。
その隙を狙うようにリザードが爪を振り下ろしてきた。
咄嗟に剣を盾にするが、重い一撃に敵の攻撃を受け止めたまま押さえ込まれる。
同時に周りの悪魔も一斉にネロに襲い掛かってきた。
両手が塞がっているネロにはもはや応戦も逃げる事もできない状態だった。

(ここまでか……)

と思われた……が悪魔達の攻撃はネロには到達しなかった。
到達する前に悪魔達の身体はバラバラに砕け散ったのだ。
ネロを抑えていたリザードも例外ではなく後方に弾き飛ばされ、その隙にネロは後方に逃れた。

「おい少年。大丈夫か?」

不意に背後から声を掛けられる。
背後に視線を向けると赤いコートを着た銀髪の男が銃を構えて立っていた。
ネロはその男から妙な気配を感じた。悪魔のような人のような……どこか懐かしいような感じだった。

「怪我してんのか?戦えねぇなら下がってろよ」

男がそう言うのと同時に地面から模様のようなものが現れ、そこから大量の悪魔が出現してきた。

「……ったく……人遣いが荒ぇな……」

男はそう零すと両手に拳銃を構えると一気に引き金を引いた。
 2015_11_10


レシアが姿を消してからネロ達は一時間近くレシアを捜索していたが、レシアを見つけることはできなかったため、一度拠点であるフリーデンに帰還した。

しかし、フリーデンに帰還したネロ、エリアとアーバインの間に流れる空気は重々しかった。

アーバインは武器格納庫に設置された椅子に腰掛けて、顔をうつむかせていた。

「レシア……」

音を立てて奥歯を噛みしめ、その隙間から呟きをもらす。

「どうして……どうしてなんだよ」

後悔の嵐が彼の心に吹き荒れ、さらに痛めつけていた。
それは、帰還した直後にネロからレシアが遥か昔に魔王によって生み出された悪魔であること、魔王の命令で顕界のスパイをしていたこと、生み出した魔王が消えた事で悪魔としての記憶を失ない、人間として生きてきたこと、最近悪魔と相対する時に魔力の高ぶりを感じ、体調不良になり、それが悪魔に戻る兆候だった事を聞かされた事が原因だった。

「クソッ……」

あの時ああしているば、あの時こうしていれば、何百もの″ありえたかもしれない未来″が浮かんでは消えていく。

「レシア、どうするのかな……」

エリアが小さく呟いた。
それはこれからレシアと戦うかもしれないという心配の言葉だった。

「……あいつは戦場に出てくるはずだ」

淡々と諭すような口調の声にアーバインは前屈みにしていた上半身を上げた。
ウェーブがかった銀髪を揺らしてネロは、アーバインと数メートルの距離に立つと言った。

「悪魔として生きて来なかった悪魔は悪魔としての自覚を持った者はどうしていいかわからず、死に場所を求める事がある。その時……」

「わかってるよ」

と、ネロの言葉を遮った。

「言われなくてもやることはやるさ。相手は悪魔だしな。引き金くらい……」

「強がるな」

半ばやけくそ気味な口調の言葉を遮られ、アーバインは顔色を変えた。
生意気な、という思考が精神網を駆け抜け、思わず険しい目を向けるが、ネロは眉ひとつ動かさずにやはり淡々とした口調で言葉を続けた。

「お前は彼女を取り戻す事を考えろ」

「……」

「お前にはレシアと戦う理由がない」

アーバインはカッとなって

「あるだろ!」

と、反抗的な言葉をネロに叩き付けた。

いつもならば絶対に聞くことのないアーバインの様子にエリアが体を震わせたのが見えたがアーバインにそれを気にする余裕はなかった。

「……戦えない理由の方が強い……違うか?」

「…………!」

ネロのその言葉で黒く膨張しようとしていたアーバインの反発心は、あっけなく打ち砕かれた。
先程まで思い煩っていた苦悩をいとも簡単に見破られたのである。

そして、アーバインが心の整理をつけられないまま……フリーデンの艦内に敵襲を報せる警報音が鳴り響いた。


……


フリーデンのセンサーが捉えたのは多数の悪魔の存在だった。

魔力を媒体に産み出されたであろう下級の悪魔が多数。
そして下級悪魔のに混じっての強力な悪魔の反応が3つ。

ネロ、エリア、アーバインの3人はその中にレシアがいるという事を本能的に感じていた。

「この反応、レシアとこの前の2人だよね……」

確認するようなエリアにネロが返す

「ここに来るということはおそらくな……」

「どうしてここに?もしかして……私達を倒しに?それとも死に場所を求めて……」

認めたくないのかエリアが小声でそれを口に出した。

「いや、倒しにくるならあの程度の戦力で来るはずがない……何か理由があるはずだ」

「どっちだっていいさ」

2人の会話を聞いていたアーバインが吐き捨てるように言った。

「あいつが俺達を倒しに来ようが別の目的があろうと、あいつを連れ戻しちまえば関係ねぇ」

「そうだね……レシア、絶対に連れ戻そう!」

「了解した……レシアはアーバインに任せる。残りは俺が引き受ける」

「わかった。じゃあ私はここに残るよ」

そうして3人はブリーフィングルームを出て各々準備を整えて出撃して行った。

……

ネロとアーバインが出撃し、悪魔達を捉えたのと同時に悪魔側もネロ達を捉えていた。

「あの悪魔……!」

下級悪魔の上に強力な魔力を感じさせる3人の悪魔が見えた。

黒い爪と翼を持った漆黒の悪魔と赤い爪に赤い翼の紅の悪魔。この2体は先刻ネロ達が退けた悪魔であることはわかっていた。

そして最後の1人顔を仮面で覆ってはいるが薄紫の髪に女性的な身体、そして見覚えのある長杖からそれがレシアである事をネロとアーバインが瞬時に理解した時だった。

漆黒の悪魔と紅の悪魔がそれぞれ違う方向に散開すると同時にその奥から仮面を着けたレシアが長杖を構えその杖から圧倒的な光量を持つ巨大な法撃を放った。

それは戦闘開始を告げる号砲である。

レシアの放った法撃は凄まじい破壊力を有しているだろう。
しかし、お互いに距離が離れすぎている。
射程距離の長さと破壊力は驚嘆な値するものだがそれをかわしきれないネロ達ではない。
事実ネロとアーバインは十分な余裕を持って法撃をやり過ごそうとした。

しかし、2人はその余裕をすぐに翻す。

かわしたはずの法撃が透明な鏡に当たって反射したかのように軌道を変え、ネロとアーバインにおそいかかってきたのだ。

「法撃が……」

「曲がっただと……!」

ネロとアーバインが驚愕の言葉を吐く。
しかし、過ぎた事を気にしている余裕はなかった。
次なる法撃が2人に向かって接近してきていた。
ネロはその法撃をかわしながらアーバインに無線を通じて呼び掛ける。

「アーバイン、ここは俺が引き受ける。お前はレシアのところに向かえ」

「オーライ!任せた!」

アーバインが進路をレシアに向けて先行して行くのを見届けるとネロは両腰に装備された2本の実体剣を抜いて構える。

「お前達の相手は、この俺だ!」


……



「レシア……」

アーバインはレシアが戦場に出てくる事をこれっぽっちも疑っていなかった。
それはネロが、保証してくれたことだ。

「……!」

レーダーの電子音によってアーバインの動きが止まる。

その視線の先に先ほど遠目に見えていた仮面を着けた女性が右手に剣の様な得物を構えて突進してきた。

アーバインは両手に構えていた狙撃銃を放り捨て、両腰に装備しているピストルを掴んで容赦なく叩きつけてくる敵の得物をコーティングされた銃身で受け止めた。
激しい衝撃と振動。
敵の得物とアーバインのピストルから激しいスパークが四方に長く枝を伸ばす。

果たしてアーバインの予想は当たっていた。
得物をぶつけ合う中アーバインはレシアの持つ波動を感じていた。

「レシア!」

アーバインは彼女に呼び掛けた。
しかしそれは、彼女を説得しようというものではなく、感情に基づく反射的なものだった。
たった1日前までアーバインはレシアと甘い時間を過ごしていた。
それが今は敵同士となり武器を交えている。

「うおおおっ!」

喉から雄叫びを迸らせ、アーバインはレシアを乱暴と突き飛ばして距離を取った。
つばぜり合いのままでは銃が使えず、何より拉致があかない。
一度は引き離したレシアが空中の壁を蹴って跳ね返るように、右手の得物を振り上げ遅いかかってくる。

アーバインはその攻撃を左手のピストルで防ぎ、右手のピストルでレシアの懐を狙ったが引き金を引く前に素早く後退され、レシアの防具を削る程度に威力を抑えた弾丸が空中です飛び去っていった。

威力を抑えていることを読んだのか、レシアが弾丸の雨を左手に展開した魔力による盾の様なもので防ぎつつ、右手の鈍い光を放つ剣……おそらく先ほどレシアが持っていた長杖を変形させたもので斬りかかってくる。
激突し、弾きあい、レシアが斬撃と同時に放つ法撃を交わし、応射し、再びもつれ合う。

ぶつかり合い、距離を離す度にレシアがこちらを誘うように戦線を離れていくことをアーバインは察していた。
自分達の艦に攻撃を仕掛けている悪魔達を倒すことだけに専念するのであれば、レシアを追わず牽制するだけにして、ネロとエリアの加勢に行くだけでよい。

「…………」

わずかに考えた末にアーバインはレシアの誘いに乗った。
レシアを追ってアーバインは戦線を離れていく。
ネロ達に対して不利になるということは重々承知していた。
だが、そうする事が正しいと判断した。
アーバイン・サザーランドとしてそうする必要が彼にはあった。

-続く-
 2015_03_15


レシアは暗闇の中にいた。しかし、それが夢である事をレシアは当に気付いていた。

そして頭に声が響く事も。

「……お前の使命は……人間界に潜り込み、人間の監視をすること」

途切れ途切れにしか聞こえなかった声もはっきりと聞こえるようになっていた。

そして、その声が響くとレシアの意識は暗闇の中に溶けていった。


……


「…………ん」

夢から覚めたレシアはゆっくりと体を起こした。
時計を確認すると時刻は深夜。日が出るまでしばらく時間があった。
横に視線を落とすと普段着のままベッドに倒れるように眠っているアーバインの姿があった。
最近になって悪魔が大量に出現することが頻繁に起こるようになり、アーバインやエリアはそれの駆逐のために寝る間を惜しんで出撃していた。
最初は大量に出現した悪魔を駆逐するため、レシアも出撃をしていたのだが、悪魔と相対すると魔力がいつも以上に満ちてしまう現象が起こり、悪魔を悪魔が現れた場所ごと消し飛ばしてしまうことが何度かあった。
同時に強い頭痛なども起こるようになったため、アーバインの計らいでレシアは出撃しないようにと釘を刺されていた。

「……あたしの事を気遣ってくれるのは嬉しいけど……無茶しちゃって……」

レシアは自分の恋人の髪をそっと撫でた。
しかし、その表情は暗いままで考えるのは自分の状態といつもの様に見る夢のことだけだった。
心の奥では自分が人ならざる存在である事をレシアは理解していた。しかし、それを認めていいのか、アーバインとはこれからどうなってしまうのか。

「……でも、受け入れなくちゃ……それがどんな結果になっても……」

レシアは自分に言い聞かせるように呟くと再びベッドに体を預け、夢を見ないことを祈りながら眠りについた。


……


「タータンコート密林地区で多数の悪魔の反応あり。出撃可能なメンバーは至急出撃し、これを殲滅せよ」

悪魔討伐の依頼が次元航行船フリーデンのメインルームのモニターに表示されたのは休養を取ったアーバインとエリアが眠りから覚めたのとほぼ同時だった。
メインルームには、エリアとアーバインとレシアが揃っていた。

「タータンコートってこの前俺達4人で行ったところだろ?」

「そうだね……ここって人もあまり寄り付かないところだから人に被害が出る事はないと思うけど……」

「とにかく出撃しないとな……レシアは……」

「あたしも行くわ……」

と、レシアがアーバインの言葉を遮った。

「けど、お前……」

ここ最近、レシアは原因不明の目眩や頭痛に悩まされていたため、エリアとアーバインに自分の任務を任せていた。

「そうだよ……具合悪いみたいだし、無理しない方がいいんじゃない?私とアーバインで……」

「ううん……行くわ……」

レシアの声は普段のレシアとは想像も付かないくらい余裕が無く、弱々しいものだったが、エリアとアーバインはレシアが1度言い出したら聞かない性格であることを知っていたため、
それ以上の説得は無駄であると悟った。

「わかった……けど、無理だと思ったらすぐ下がらせるからな」

「ええ…ありがと……」

それから3人は準備を整え出撃していった。


……


「なんだこりゃ……」

タータンコート密林区の至る所に悪魔が現れていた。
先日現れた数とは比べ物にならないほどの悪魔が本能のままに暴れていた。

「どこかに「穴」が開いているのかな……」

と、エリアが呟いた。
本来悪魔が棲む魔界は人間界と分断されていて行き来する事はできない。しかし、何かの拍子にふたつの世界を繋ぐ穴が開いてしまう。そして、そこから悪魔が這い出してくる。
魔王であるネロに聞いた話だが、理論上は、そういう穴を人為的に開ける事が出来るらしいのだ。
あくまで理論上の話だとネロは言っていた。凄まじく強い魔力を持った物質を使用すればそういう穴を開くことも不可能ではないが、人間界にそういったものが流れ込む事はあり得ず、人間がそういった物を使用することも出来ない。
だからあくまで理論上の話であると。

「……考えるのは後回しだ!行くぞ!」

アーバインがスナイパーライフルを構えて悪魔達に狙いを定め、トリガーを引き絞る。
アーバインの正確な狙撃で悪魔が1体、また1体と倒れていく。

「はぁっ!」

エリアも鞘から愛刀を抜き放ち、自慢の高速移動を駆使して流れるように悪魔を切り裂いていく。
しかし、悪魔は衰えるばかりか、後から後から沸いてくる。アーバインもエリアも既に何体の悪魔を屠ったのか覚えていなかった。

「……レシア?」

悪魔を切り裂きながら、レシアの方に視線を移動させるとレシアが悪魔と相対しているのが見えた。同時にレシアの表情に余裕がないことも。
ここ最近レシアが悪魔と相対した時に魔力が強くなる傾向にあるという話を聞いていた。

「くっ…!」


牙を、爪を振りかざして襲い掛かる悪魔の攻撃を最小限の動きで避けていた。
しかし、避けているとはいえかなり危なっかしく、少しでも気を抜けば悪魔の攻撃を受けてしまいそうですらあった。

「……っ!」

隙を見てレシアが牽制のための法撃を目の前の悪魔に放つ。その法撃を受けた悪魔が一瞬で玉砕した。
この法撃はあくまで牽制であり、更なる法撃の布石のためのものだったのだが、それ以上の威力が出てしまったため、レシアは戸惑いを隠せないようだった。
その余波を受けてレシアの周りに群がっていた悪魔も吹き飛ばされ、その隙にスナイパーライフルから2丁拳銃に持ち換えたアーバインと刀を構えたエリアが吹き飛んだ悪魔を殲滅していった。

「これで全部か?」

銃を納めたアーバインが呟くと

「……気配は感じないけど」

と、エリアがよろめいているレシアを支えながら答えた。
レシアの息が荒かった。無理して戦場に出て戦闘をした影響だろうと、エリアが前方に視線を向けると地面がぼんやりと光っているのが見えた。
それは魔法陣だった。
悪魔……それもかなりの強さを誇る悪魔が人間界に姿を現すための扉。

「あれは……魔法陣か!?」

アーバインも気付いたのかスナイパーライフルを構えて臨戦態勢になる。
魔法陣から出現したのは黒く光る鋭い爪と翼を持った漆黒の悪魔だった。一目で先程の悪魔達とは比べ物にならない高位の悪魔であると3人は認識した。

「……」

漆黒の悪魔は背筋を伸ばして伸びをしていた。

「お"いあいつか?お"れ達が探してるっていうのはよぉ……」

漆黒の悪魔が低い男の声を発しながらエリアに支えられているレシアを指差した。

「ああ……あの容姿、間違いない。紛れもなく魔王の創り出した密偵だ」

漆黒の悪魔に続いて魔法陣から2体の悪魔が現れる。
1体は漆黒の悪魔と同じように赤く光る鋭い爪を持っていたが、最初の漆黒の悪魔よりは知的な印象を受けた。
もう1体は長い槍を持った全身鎧に身を包んだ悪魔で、赤い爪の悪魔の隣で沈黙を貫いていた。

「さっさと終わらせちまおうゼ?」

漆黒の悪魔が爪を擦り合わせて火花を散らす。

「そうだな……ベルルーガ…任せていいか?」

「お"うよ!」

ベルルーガと呼ばれた漆黒の悪魔が翼を広げてアーバイン達のほうへ突進してくる。

「真っ向から来るとはな!エリア、レシアのフォロー頼む!」

「わかった!」

エリアがレシアを守るように後方へ下がる。
それを確認したアーバインはスコープシステムをセットして接眼用モニターを覗き込んだ。モニターの映像が、突進してくる悪魔を捉える。

「狙い撃ちだぜ!」

アーバインはトリガーを引くとアーバインの持つスナイパーライフルから一条の弾丸が発射された。
弾丸は空気を切り裂くように、一直線に漆黒の悪魔へと向かっていくが……

「お”お”っと!」

ベルルーガの体が踊った。弾丸が当たる直後に空中へと跳び、その股下をアーバインの撃った弾丸が通過していく。

「なっ……!?」

アーバインがわずかに顔を上げた。

「あんな方法で弾を避けるだと?どんだけ負担かけてんだよ!だが……」

思考を切り替え再びスナイパーライフルのトリガーに指をかける。

「2度目はないぜ!」

アーバインが2回トリガーを引いた。
しかし、そのビームを、ベルルーガは大きく軌道変更してかわした。

「俺が外した!?何だこの悪魔!?」

ベルルーガは下劣な笑いを上げながらアーバインに接近するとそのままの勢いでアーバインに思い切り右脚をぶつける。

「蹴りをいれやがった!」

アーバインは痛みと衝撃に耐えながら素早く後方へと下がりながら武器をスナイパーライフルから二丁のハンドガンを持って両手に構える。


……


「…………くっ!」

アーバインがベルルーガと対峙しているのと同時にエリアはもう1人の……赤く光る爪の悪魔、鎧に身を包んだ悪魔と対峙していた。

「はっ!!」

赤い爪の悪魔の攻撃を刀で弾き飛ばし、その勢いを利用して鎧悪魔の胴を蹴り付け、レシアから距離を取らせた。

「………」

「この女……中々やる……このブラッドの相手になりそうだ」

ブラッドと名乗った悪魔が赤く光る爪を光らせて再びエリアに攻撃を仕掛ける。

「見えてるよ!」

ブラッドの攻撃をエリアは刀を抜いてその一撃に立ち向かった。
刃と爪の衝突により、火花が飛び散る。鍔迫り合いの格好になりながらお互いに一歩も引かなかった。

「ふふ…心が騒ぐ……しかしわからんな」

「?」

「悪魔を殲滅しているお前達が何故悪魔を守っているのか……」

「えっ……っぅ!」

その言葉に動揺したエリアの隙を突くようにブラッドがエリアの身体を突き放す。
よろめき、後退したエリアにブラッドの追撃が迫る。その追撃を避けきれなかったエリアの脇腹を赤い爪がかすめる。

「くっ……っ!」

エリアは痛みに耐えてブラッドを蹴り飛ばして距離を取る。

「どういうこと…?悪魔を守ってるって」

「何だ、気付いていないのか?お前が守っているその女のことだ」

ブラッドが赤い爪でレシアを指差す。

「えっ?」

「その女はかつて魔界の王に作られた人間界観察用のスパイだ。もっともその女にその時の記憶は無いようだが」

エリアがレシアの方へ視線を落とすとレシアは半ば放心状態のようだった。

「そんなの嘘だよ!」

エリアはその事実を認めないとばかりにブラッドに斬りかかる。

「……では、証拠を見せてやろう」

ブラッドがエリアの一撃を防ぐのと同時に鎧悪魔の気配が消えた。
エリアの一撃を止めている間にエリアの死角を狙うつもりなのか…エリアはそう読んだがそれは大きな読み違いだった。
それに気付いたのはレシアのいる場所からびちゃりという生理的嫌悪感を感じる音を聞いてからだった。
エリアが視線をレシアのほうへ走らせると鎧悪魔の槍がレシアの腹を貫いていた。

「ぐっ……うぅ…」

レシアの口と貫かれた腹から血が流れていた。
しかし、それは人間のような赤い色ではなく、紫色かつ淡い光を放っていた。
明らかに人の流す血の色ではないことだけは確かだった。それがブラッドの言う"証拠"なのであろう。

「あの光は…魔力が強くなっているのか……使えるな」

ブラッドがそう呟いたその次の瞬間、レシアの腹に槍を突き立てていた鎧悪魔がレシアから離れた。
正確には吹き飛ばされたと言うべきか。

「なんだ!?」

「……!?」

吹き飛ばされた事に驚いたブラッドが空を見上げ、それに釣られてエリアも同じように空を見上げると両手に剣を持ったネロが上空から凄まじいスピードで急接近してくるのが見えた。

「ネロ!?」

「エリア、下がれ……!」

ネロは叫ぶと見上げているブラッドに目もくれず、両手に握った可変式の剣を銃に変形させるとレシアを貫いた鎧悪魔の足元へ向けて魔力による砲撃を一射し、鎧悪魔とレシアとの距離を更に開けた。
鎧悪魔は相変わらず無口であったが己の職務を全うするためか、手にした長大な槍で接近してくるネロへ猛然と攻撃を開始した。
しかし、その一撃一撃はことごとくかわされ、ネロが応射する。
鎧悪魔はネロの射撃をその鎧で防ぎはしたものの、それを見て取ったネロは右手の剣を投げナイフのように投げつけ、鎧悪魔の鎧の関節部分を貫かせ、それに向かって左手の剣から砲撃を放ってみせた。
直撃を受けた剣は悪魔の至近で爆発した。

「もらった!」

鎧悪魔が爆発でよろめいた隙にネロが左手の剣を鎧悪魔の鎧に突き立て、そのまま切り裂いた。
真っ二つに切り裂かれた鎧悪魔は嗚咽のような声を漏らすとそのまま膝を付いた。

「……やはり」

ネロが着地すると同時に鎧悪魔は人魂のようなものを飛び散らせると鎧悪魔は霧のように消え去った。

「次はお前だ……血染めのブラッド」

ネロがブラッドに向けて剣を突きつける。

「お"お"ああッ!」

ブラッドの元に身体の所々を銃弾で撃ち抜かれたベルルーガが絶叫しながら倒れこんだ。

「ちっ……状況が悪い。仕方ないここは退くぞ」

「くそぉ……覚えておけよ」

ベルルーガが捨て台詞を吐くと同時にブラッドとベルルーガは最初に現れた時と同じように魔法陣を展開させて消えた。

「……」

ネロは追うつもりが無いと判断したのかそれを黙って見過ごした。

「ネロ、どうして……」

「何があった?」

悪魔達を見逃したネロの元にエリアとアーバインが集まってきた。
2人を見たネロはハッと我に帰った。

「説明は後でする!レシア!」

「そうだよ!レシアの手当てしなきゃ!レシア!」

ネロとエリアがレシアの名を呼ぶがレシアの姿は無く、残っていたのは光を失ったレシアの血痕だけだった。

-続く-

 2014_11_10


「……」

ヴェルフリーデの一員であるレシアは長杖を構えて法撃の準備をしていた。

先刻、多数の悪魔が密林区に現れたという依頼を受けてレシアはアーバイン、ネロ、エリアと共に指定された密林区に出向いて悪魔を殲滅していった。

近接戦闘に特化した装備のネロが前に出て悪魔の注意を引き付け、刀とボウガンを装備したエリアが中距離でネロに注意を向けた悪魔を次々と撃破していく。レシアの視点では確認できないが狙撃主のアーバインもどこかに身を隠し、目標をエリアに変えた悪魔の頭を撃ち抜いていった。

ここまでネロとエリアが悪魔の囮となってくれたおかげでレシアは安全に法撃攻撃の詠唱を続けている。端末を確認すると残っているのは4体の悪魔だけとなっていた。
エリアの後ろにネロ、そしてその後ろに自分がいる。詠唱を続けながらレシアはこの配置がなにかを察した。昔、ネロ達と考案した連携だ。

エリアが持ち前の高速移動を生かして敵に向かってボウガンで牽制の矢を放つ。敵が散開したのと同時に、エリアの背後からネロが突撃して装備していた剣を銃に変形させて散開した敵に向けて弾丸を放つ。

ネロは近接戦闘に特化してはいるが、銃に変形できる剣を装備することで射撃戦もこなせるようにしていた。
しかし、そのネロの攻撃も牽制だ。悪魔の1体を足止めしてネロに注意を向けさせるための。

「……ふふっ♪」

その隙にエリアが旋回してネロが足止めした敵の死角に接近していった。悪魔がそれに気付いた時にはもう遅い。
エリアが鞘に収められた刀を抜いて、悪魔の頭と右腕を切り落とし、もう一体の悪魔に向けてボウガンを連射する。

それをしっかり目視していた悪魔が両腕を交差させてそれを防ぐが、それも連携のひとつだった。
エリアが牽制している隙にネロが死角から迫る。実体剣を構えたネロが悪魔に向かって突進していった。

悪魔がそれに気付いて間一髪で腕から生えた爪のような部分でネロの剣を受け止めるが、ネロの力を抑えるまでには至らず、腕ごとその身体を両断された。

「仕上げかしら……♪」

そう呟いたレシアが準備していた法撃の斜線を捉えた。
ネロとエリアが派手に動いて敵を倒し、残りの悪魔の注意を引きつけている隙にレシアが詠唱を続けていた大出力の法撃で敵を殲滅する。

そしてそれはうまくいき、レシアの長杖から大出力の法撃魔法が発射され、残りの悪魔を呑み込んだ。
ほんの一分にも満たない時間で残っていた4体の悪魔を撃破した。
4人は戦闘中、一切の通信を行っていない。それでも仲間達はレシアに応え、レシアは仲間達に応えた。

「これが、仲間か……」

その感慨にふけっているとネロとエリアがレシアの元に集まった。

『さぁて、帰ろうぜ!』

通信端末からアーバインの声が届き、ネロがキャンプシップに帰還するためのテレパイプを展開させる。
ネロがテレパイプの中に入り、エリアとレシアも続いて中に入っていった。


「よっ、お疲れ!」

テレパイプを使ってキャンプシップに戻るとスナイパーライフルを背負ったアーバインがキャンプシップで待っていた。
4人とも帰還に設定してあるキャンプシップは同じなので、距離が離れていようがこうして合流することができた。

「……お疲れ」

「お疲れさまっ♪」

ネロとエリアがアーバインに返事をする。

「エリアも随分前線で活躍できるようになったな」

端末を通して遠くから様子を見ていたアーバインがエリアの戦闘内容を褒めた。

「そうかな……///

褒められたエリアが顔を赤くする。

「そうね~♪杖持って後ろの方で縮こまってたのが懐かしいわ♪」

「わわっ、レシア!その時の事は言わないでよ!!///

昔の自分の話をされたエリアは顔を赤くして両腕をぶんぶんと振る。ヴェルフリーデの組織の中で年長組の一員であるエリアは年少組からは姉のように慕われているが、年長組の間ではこのようにいじられることが多い。
そんなエリアをレシアは妹のように可愛がっていた。たまにやりすぎてへそを曲げられることもあるが。

「でもちゃんと上達して一流の法撃士になってたじゃない。それなのに、次に会った時には刀握って前線に立ってるんだもん」

レシアの言葉にアーバインも、「今からでも法撃士に戻ってもいいんじゃないか?」と続けたがエリアは

「え、えっと……///

と顔を赤くして口ごもっていた。

「ダメよ、アーバイン。法撃士に戻ったら愛しのネロと肩を並べて前線に出れないじゃない♪」

「レ、レシア!///

耳まで赤くなったエリアがレシアの腕を掴んでぶんぶんと振る。

「あー、そりゃ気が利かない事を言っちまったなぁ!」

とアーバインも悪乗りするが当のネロには聞こえていないようだった。

「ほ、法撃士ならレシアがいるじゃない!私は前線で戦うって決めたんだから……レシアの方が法撃士としての実力も技量も高いじゃない」

「そう言われるとそうだな。初めて会った時からお前の法撃は規格外だったよな。あんなのどこで覚えたんだ?」

「さぁ、どこかしらね」

と応えたもののレシアはその問いにどう答えようか迷っていた。自分がどこで生まれ、どんな風に育ち、どのようにして戦闘技術を身に付けたのか、それら全てを思い出すことが出来なかった。
今までは持ち前の飄々とした性格と話術で流していたが、何度も聞かれたら流石にボロが出るだろう。

(それに……)

仲間達に悟られぬようにレシアは1人もの思いにふけった。最近おかしな夢を見るようになったのだ。誰かに命令されるような、そんな内容だった。そして、悪魔と戦う度に何故か魔力がざわめくような感覚を感じる事があった。

「……シア!レシア!」

「え、何?」

アーバインに呼びかけられてはっと我に返った。予想以上に深く考えていたらしい。

「大丈夫か?何か調子悪そうだったが」

「え、ええ……ちょっと疲れたみたい。今日はもう休むわね……お疲れ様」

そう言い残してレシアは部屋に向かった。



任務が終わった日の夜、レシアはネロの部屋を訪れていた。

「ネロ、ちょっといいかしら」

「レシアか……どうした?」

部屋のドアを開けたネロは意外な来客に一瞬目を見開いたがすぐに口元を引き締め、レシアに中に入るように促した。
部屋の中に入ったレシアは近くのソファに腰掛けた。

「何か飲むか?」

「……じゃあ、コーヒー」

そう伝えてから数分後、両手にマグカップを持ったネロが片方をレシアに差し出した。

「ありがと♪」

マグカップ受け取り、立ちのぼる湯気と香りを楽しんで、口をつけた。ネロが淹れたコーヒーが舌を刺激して、ようやく一息つけたような気分になれた。

「それで、どうした」

同じようにコーヒーを飲みながら、ネロが向かいのソファに腰掛けた。

「実は、ちょっと相談があってね……」

「言ってみろ」

少しも驚いたような素振りを見せずに淡々とそう言った。その様子に感謝してレシアは昔の記憶が無い事、最近自分が悪魔と相対すると魔力がざわめくような感覚の事を話した。

「……ふむ」

ネロは黙ってレシアの言葉を反復しているようだった。
少し前、魔界は王を失い魔界に残された悪魔達は本能のままに人間達を襲い、魔界と人間界は大混乱となった。
そんな中、人間と悪魔の血を引いた存在であるネロは魔界の王となり、その大騒動を治めたのだった。故にネロはヴェルフリーデの中で悪魔の事に関してトップクラスの知識を持っていた。

「……」

突然ネロが無言で立ち上がった。

「わっ、びっくりした……どうしたの?」

そう問いかけた時、ネロの表情は若干影を落としていた。普段感情を表に出さないネロだがレシアはネロとかなり付き合いが長いため、エリアやアーバイン同様に多少の変化が読み取れるのだった。

「すまない、少し出かけてくる」

心なしか、緊迫している様にも見えた。

「え、ええ……わかったわ」

「せっかく来てくれたのにすまないな」

「ううん、いいの……」

そうして、ネロは部屋から出て行った。

「…………」

レシアはネロの様子を思い出していた。自分の事を話を聞いた後のネロの様子はどこかおかしかった。
悪魔絡みの事だったので悪魔を統べるネロに相談をしたのだが、これは自分が思っている以上に良くない事なのだろうか。

「……ふぅ」

カップのコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置くと向かいには半分以上残ったネロの冷めてしまったコーヒーが置いてあった。



ネロの部屋を後にしたレシアは自室に戻り、はぁっ…と溜息をついた。
寝間着に着替えてベッドに入ると隣には古くからの仲間であり恋人でもあるアーバインがすぅすぅと寝息をたてていた。
それを見たレシアは愛する恋人にぴったりと体をくっつけて目を閉じた。

「ん……レシア?」

不意に自分の名前を呼ばれたのを感じてゆっくり目を開けて視線を上に向けるとアーバインがレシアを見ていた。

「あ、ごめん……起こしちゃったかしら」

「誰かさんのおかげでな」

そう言ってアーバインがレシアの肩を抱いた。その温もりがとても心地よくてレシアはくすくすと笑った。

「なにがおかしいんだ?」

「ん~なんでもない♪ただちょっと……」

「……?」

「幸せだな……って」

そう告げるとアーバインは照れくさくなったのか指先でレシアの額を小突いた。

「……いたっ」

小突かれたレシアは額を押さえて不満げな表情を浮かべていたが、反撃とばかりにどんっとアーバインの胸に自分の頭を乗せた。いつもの光景だった。アーバインに好きだ、愛していると告げられて自分もその気持ちに応えて唇を重ねたその日からずっと繰り返している光景だった。お互いの愛を確かめ合ったり、他愛の無い思い出話をしたり2人にとっては当たり前の光景、しかしレシアにとって何よりも幸せな光景だった。

「そういや、レシアには兄弟とかいるのか?家族は……?」

「家族?」

「ああ……」

「あたし……の……」

純粋な好奇心で聞いてきたのだろうが、レシアはどうしていいのかわからなくなり、ゆっくりと体を起こした。
その時の記憶が無いレシアはただ沈黙するしかなく、レシアは頭を両手で抱えて必死に思い出すように背中を丸めた。

「レシア?」

恋人の普通じゃない様子にアーバインも体を起こして、レシアの顔を覗き込んだ。

「あ、あたしは……」

その表情は何も知らない人間なら過去に思いを馳せているように見えるだろう。しかし、アーバインには何も無い場所で必死にあがいている、または泣き出してしまいそうな表情に見えていた。

「……あたしは……その……」

アーバインはゆっくりと優しく、レシアを抱きしめた。

「言いたくないなら言わなくていいさ。俺とお前はここにいる。それだけで十分だろ?」

「……アーバイン……」

少しだけ体を離してお互いの唇を重ねた。
目を閉じてのキスはお互いの存在を感じさせた。アーバインが背中に回した腕に力を込めたのを感じるとレシアもしがみつくようにアーバインの体を抱きしめた。もう離したくないと、力を込めると不意に意識がどこかに飛んでいくようなそんな感覚に襲われた。アーバインの存在すらも感じなかった。代わりに感じたのは真っ黒な影。

「……、………。」

黒い影はレシアに夢で見た時と同じように何かを命令しているようだった。
夢とは違い、人間、悪魔、魔界という単語が聞こえたが内容は途切れ途切れで何を言っているのかはわからない。

「レシア……レシア、レシア」

レシアの意識はアーバインによって引き戻された。気が付くと唇を重ねていたはずのアーバインはレシアの両肩を掴み、軽く揺さぶっていた。

「え……あれ……あたし……」

きょろきょろと周りを見回すレシアにアーバインは軽く苦笑して見せた。

「ったくキスの途中で呆けんなよ」

そう言うとアーバインは先程と同じようにレシアの額を指先で小突いた。

「……ごめん」

謝ってレシアは甘えるようにアーバインに体を預けると、アーバインはしっかりと抱きしめた。

「…………」

腕の力は抜いていたがアーバインの表情は硬かった。首を傾げるレシアを安心させるようにアーバインはゆっくりと囁く。

「心配するな……俺が絶対に守ってやる」

そう言ってアーバインはいつの間にか腕に力を込めていた。アーバインが腕をほどいたのは、数秒後、抱きしめられていたレシアが「ちょっと苦しい……」という呟きを聞いてからだった。
アーバインは我に返って「わるい……」と謝った。

-続く-

 2014_08_24



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プロフィール

ネロ

Author:ネロ
Ship4にて大小の差はあれど活動中。

故にPSO2の活動記録を中心に更新予定。
それ以外の事も気分次第であげていく。

そんな気まぐれな主の気まぐれブログ。

~主な更新内容~

PSO2(キャラのSS集/クエスト、アイテム記録)

趣味でやってるSSや設定など(順次更新予定)

その他(上記2つ以外のゲームや趣味について)


~PSO2やSSに登場するマイキャラの紹介~

     現在画像準備中

ネロ・クレイトス
自分の感情を表に出さないクールな性格。

エリア・リオン
明るく優しい水の精霊。
穏やかさと力強さをもつ女性。

ローズ・クレイトス
ネロの妹であり、感情を表に出さない少女。

アーバイン・サザーランド
様々な銃を使いこなすスナイパー。
飄々とした性格で組織のムードメーカー。

レシア・ライオット
法撃を得意とする妖艶な女性悪魔。
掴みどころのない性格だが、物事の本質を常に捉えている。

レイ・クローディア
良くも悪くも真っ直ぐな心を持つ少年。
守りたい者を守るために強くなることを夢見ている。

クイン・フォルネウス
普段はおとなしいが戦闘になると凶暴になる。

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